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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)2743号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

被告人および弁護人岩橋清の各上告趣意は別紙書面記載のとおりである。

職権により調査すると、第一審判決は、被告人は法定の除外事由がないのに日本専売公社の売り渡さない塩を判示のごとく譲り渡し、または所持したものであると認定し、塩専売法四二条一項、四七条二項を適用した。原判決は右認定を支持するにあたり、「公社の売渡した塩でないもの」のうちには、「日本専売公社が正式に売り渡していない塩は勿論、かつて公社から売り渡された塩であっても、所論のごとき夾雑物を含むにいたり塩専売法に基き公社から売り渡された塩に比し著しく品質を異にしそれと同一性を維持し難いものと認められ且つ一応使用済となるか又は荷後蒐集業者の集めたものを、公社以外の者から入手した所論廃塩、荷後塩のごときもまたこれに包含するものと解するを相当とする」と説示している。しかしながら、塩専売法において「塩」とは、塩化ナトリウムの含有量が四〇パーセント以上の固形物をいい(法一条)、右含有量以上の固形物であるかぎりは、たとえ鯨の塩蔵用として使用済のもの、またはいわゆる荷後塩であって、夾雑物を含むにいたったからといって、そのために塩である性質を失うものとすることはできない。そして塩の製造というのは、塩以外のものから塩を採出することをいうのであって(法一条四項の塩の「再製」、同五項の塩の「加工」の意義、昭和二九年(あ)第一一五九号、同三〇年一月一三日第一小法廷決定各参照)、使用済の塩の夾雑物を水で洗い落す操作のごときは、塩の加工にあたり、新たな塩の製造であるとすることはできない。そうとすれば、本件の塩が公社の売り渡さない塩であるかどうかということは、ひとえに右加工前の塩が公社の売り渡さない塩であるかどうかによって決せられなければならない。しかるに本件の塩のうち鯨の塩蔵用として使用済のものは、むしろかつて公社の売り渡した塩であると認められ、その他のものはかつて公社の売り渡した塩でないかどうか必ずしも明らかであるとはいえない。原判決が本件の塩をすべて公社の売り渡した塩でないものと判断したのは、法令の解釈を誤りひいて事実を誤認した疑いがあるものというべく、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。よって、上告趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴四一一条一号三号、四一三条により原判決を破棄し、本件を原裁判所である大阪高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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